แชร์

2-10 モルディブ到着 2

ผู้เขียน: 結城 芙由奈
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-07 20:28:11

朱莉たちが泊まるホテルは空港がある島のホテルだった。

「それにしても珍しいわね~。たいていは島の水上コテージに泊まるのが主流なんだけど、ホテルとはね……まあ、この島なら不便は無いから。それで選んだのかしら?」

エミは車を運転しながら首を傾げる。

「さあ……私からは何とも……」

朱莉はほとんどモルディブの事を知らないので、曖昧な返事しかできない。

そんな朱莉をチラリとエミはチラリと見る。

「でも運が良かったわ~。ここはね、5月~10月が雨季なんて言われてるけど、今日は良く晴れているわ。滞在中はずっと晴れてるといいわね」

「そうなんですか? それじゃ私、ほんとについていたんですね。お天気に恵まれたし、エミさんのように素敵な女性ガイドさんにも巡り合えたし」

「あら、そう言ってくれると嬉しいわ」

エミは軽快に笑う。

「あ、アカリ。ホテルが見えてきたわよ」

エミの指さす方角に海岸沿いに建つ白い壁が美しいホテルが見えてきた――

****

 フロントでエミがホテルの従業員と話をしている間、朱莉はホテルのロビーのソファに座り、ぼんやりと外を眺めていた。窓からは美しい海に白い砂浜が見える。とても素晴らしい景色ではあったが、朱莉の心は沈んでいた。

(やっぱり何も連絡来ないんだな……。今頃あの2人はどうやって過ごしているんだろう……?)

そんなことを考えていると、手続きが終了したのか、エミがこちらへとやってきた。

「お待たせ、アカリ。……あら? どうしたの? 元気が無いようだけど大丈夫?」

「え、ええ。大丈夫です。少し慣れない旅行で疲れただけですから」

「そう……? それでこのホテルは朝食は出るけど、昼と夕食は食事が出ないの。一応ホテルには24時間空いているカフェがあるから、そこで軽食を取ることが出来るけど……どうする? 今夜は一緒にお店で食事しようと思っていたんだけど」

「そうですか。でも……すみません。折角のお誘いなんですが体調が悪いので明日にしていただいてもいいですか? 今夜はホテルのカフェで食事しますので」

「そう……? 分かったわ。お部屋はこの上の805号室よ。はい、これが部屋のカードキー」

エミは朱莉にカードキーを渡した。

「ありがとうございます」

「それじゃ、明日10時に部屋に迎えに行くわね?」

「え?」

「あら、いやね。私は通訳だけど、ガイドでもあるんだから。観光案内し
อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป
บทที่ถูกล็อก

บทที่เกี่ยวข้อง

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-11 彼女の優先順位 1

    朱莉は自分が宿泊する805号室に着くと、カードキーを差し込んで部屋の中へ入った。中は広々とした20畳ほどの部屋の間取りで大きなベッドが2台置かれている。掃き出し口の窓はバルコニーになっていて、そこから美しい海が見える。時刻は18時を少し過ぎたところで、日の入りが近いのか海にオレンジ色をした太陽が沈みかかり、空は美しい夕暮れ色に染まっていた。「うわあ……綺麗……」朱莉は少しだけその景色に見惚れ……やがて着替えもせずにベッドに倒れ込んでしまった。(おかしいな……さっきから身体が熱くて、頭が割れそうに痛い。風邪でも引いてしまったのかな……?)何とかベッドから起き上がり、持参して来た体温計を探し出すと、熱を計ってみた。やがてピピピピと検温が終わった事を知らせる音が鳴り、体温計の数値を見て驚いた。「え…嘘でしょう…?」何と朱莉の体温は38度5分をさしていたのだ。「そ、そんな……こんな所にきて風邪引いちゃうなんて……」熱もそうだが、それよりも深刻なのが割れそうな程の頭の痛みだった。朱莉は元々片頭痛持ちだったので、痛み止めを常時持参していた。ズキズキと痛む頭を押さえながら、何とかショルダーバックから痛み止めを取り出すと、買っておいたミネラルウオーターで薬を飲む。着替えをする気力も無かったので、取り合えず来ていた服だけを脱いで畳むと下着姿だけでベッドの中へ入った。ベッドの中で身体を丸めて痛む頭を押さえながら寝ようとしても、具合が悪すぎて眠る事ができない。朱莉はベッドの中で自分に必死に言い聞かせた。(大丈夫……さっき私が飲んだ薬は痛み止めだけど、解熱効果もある。きっとその内、熱も下がって身体が楽になって眠れるはず……)やがて暗い室内に寝息が聞こえ始めた。痛み止めが効いて来た朱莉がようやく眠れたらしく、スマホの着信音が鳴っているにも関わらず、深い眠りに就いている朱莉がそれに気づくはずも無かった……。 その頃――  朱莉とは違う本館のホテルに泊まっていた翔はトイレに行って来ると言って席を立ち、朱莉のスマホに電話を掛けていた。しかし何コール呼び出し音が鳴っても朱莉が電話に出る気配が無い。「どうしたんだ? 何故電話に出ないのだろう? ガイドの女性が空港に迎えに来ると琢磨が言っていたから彼女と一緒に食事でも楽しんでいるのか?」半ばイライラしながら翔は朱莉に

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-08
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-12 彼女の優先順位 2

     祖父にいきなり明日香との関係性を咎められ、無理やり見合い話を持ち出された時。真っ先に思いついたのが相手に単価を払っての偽装結婚だった。月々、手当として破格の給料を支払い、必要に応じて妻を演じてもらい、別れる時はあっさり身を引いてくれる女性を雇えば良いのだと。まずこの話を最初に相談したのは言うまでもない、明日香だった。明日香にこの話をすると、彼女は突然激しく怒り狂い、家中のありとあらゆるものを破壊しつくした。だが翔の必死の説得により、ようやく応じた明日香と約束したのだ。絶対に偽装結婚をする相手は自分よりも外見が劣る女にしてくれと。 次に相談した相手は琢磨だった。てっきり彼も自分の意見に賛同してくれるかと思ったのだが、偽装妻の話をした時は顔色を変えて猛反対した。お前は相手の人権を踏み躙るのかと。お前が相手にする女性は血の通った人間だ。それなのに、そんな残酷な事をするのかと。だがその時は琢磨の話を鼻で笑い、嫌がる琢磨に無理やり偽装妻の人選をさせたのだ。そして選ばれたのが朱莉。地味な外見で派手な美人である明日香とは比較にならない存在だったのだが……実は彼女はその美貌をどんな理由があるのかは分からないが、自らの意思で隠していた。そしてその事を知った明日香はどんどん情緒不安定になってゆき、今では精神安定剤が欠かせないようになってしまった。こんな事なら最初から諦める前に、時間をかけて祖父の説得を試みるべきだったのだ。そうすれば明日香はこんな状態にならず、朱莉だって不当な扱いを受けるべき存在にはならなかったのだから――  酔って眠ってしまった明日香を背負い、部屋まで戻ってベッドへ寝かせた時、タイミングよく翔の携帯が鳴った。相手は琢磨からだった。「もしもし。どうしたんだ? こっちの時間ではまだ夜の8時だが、そっちはもう真夜中だろう? 何か急ぎの用事か?」『いや。別に急ぎの用って訳じゃ無い。朱莉さんはどうしてるかと思ってな』「どうしてるかと聞かれてもな……今日はまだ1度も彼女に会っていないんだよ」翔の言葉に琢磨から電話越しに呆れた声が聞こえてきた。『はあ? 翔……お前って奴は……ほんとに……!』「分かってる。朱莉さんには本当に悪い事をしていると心から反省している。だからさっきから、何度も朱莉さんに電話をかけても出ないんだ。恐らくはガイドの女性と

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-08
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-13 優しさに触れて 1

    翌朝―― 朱莉は酷い寒気と頭痛で目が覚めた。「参ったな……。体調良くなっているかと思っていたのに……」ため息をつきながら朱莉は寒さで身体を震わせた。寒い……ということは、これからもっと熱が上がるのかもしれない。おまけにシーツや布団が肌に擦れるとヒリヒリと痛む。この様子では今日中に体調が回復するとはとても思えなかった。「パジャマに……着替えなくちゃ……」何とか身体を起こすが、途端に激しいめまいが起こってベッドの上に倒れこんでしまった。(め、目眩……落ち着くのよ……)目を閉じて、目眩が治まるのをそのままの体制でじっと待つ。やがて、徐々に治まってきたので今度はゆっくり起き上がった。「うぅ……」とてもではないが、スーツケースからパジャマを探す気力が無かった。「何か部屋のクローゼットに……バスローブでも入っていないかな……?」ふらつく身体を奮い起こし、朱莉はクローゼットに向かった。震える手で扉を開けて中を覗くと、ハンガーにバスローブがかかっている。ワッフル時で手触りの良いバスローブ。これなら肌に擦れても痛くはないかもしれない。朱莉はバスローブに袖を通し、再びベッドに向かうと痛み止めを飲んだ。本当なら何か口に入れてから飲まなくてはならないのだろうが、あいにくこの部屋には何も食べ物が無いし、食欲すら無かった。(……こんなことなら……部屋に入る前に何か食べ物を買っておけば良かったな……)熱でズキズキ痛む頭を押さえながら、自分の熱くなった額に手を当ててため息をついた。その時、朱莉のスマホが鳴った。「多分……エミさんね……」気力を振り絞り、何とか朱莉は電話に出た。「はい、もしもし……」『おはよう、アカリ。……何だかすごく具合が悪そうだけど……もしかして風邪ひいちゃったの?』受話器越しからエミの心配する声が聞こえてくる。「はい……そうみたいです。それで申し訳ありませんが……今日はとても出掛ける事が出来ないので……ホテルで…休むことにします……」『風邪薬は飲んだの? 何か食べた?』「頭が痛いので……持ってきた痛み止めは……飲みました。…食事はとっていません……」『ええ!? そうなの!? 誰か様子見に来てくれたの?』「いいえ……? 誰も来ていませんけど……?」『……そう』(エミさん……どうしたんだろう?)エミの声に何か怒りというか、

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-08
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-14 優しさに触れて 2

    ウトウトしていると、突然額にひんやりとしたものが乗せられて朱莉は目を開けた。すると心配そうに朱莉をのぞき込んでいるエミの姿があった。「……あ……エミさん……?」「ごめんね。起こしちゃったかしら? 熱があまりにも高かったから、冷やしてあげようと思って」「どうもありがとうございます……」「いいのよ、気にしないで。色々食べられそうなもの買ってきたのよ。部屋の冷蔵庫に入れておいたから食べてね。後、家からフルーツを沢山持ってきたの。昨日の夜から何も食べていないんでしょう? どう? 今食べられそう?」「はい……食べられそうです」朱莉はベッドから体を起こすとヘッドボードに寄りかかった。「それじゃ、ちょっと待っててね。すぐに持ってくるから」エミはいそいそと立ち上がると、部屋の奥にある冷蔵庫から皿にのった山盛りのフルーツを持ってきた。皿にはマンゴーやパッションフルーツ、バナナ、そして……。「あの……これは何ですか?」朱莉は皿の上に乗った緑色のごつごつした果実を指さした。「これはね、『カスタードアップル』っていう南国のフルーツよ。聞いた事無いかしら?」「はい……見るのも聞くのも初めてです……」「あら、そうなの? それじゃ早速食べてみてよ。すごく美味しいのよ?」エミは嬉しそうに笑うと身を取り出して、小皿に取ると朱莉に差し出した。「はい、食べてみて」「いただきます……」スプーンですくって口に入れた朱莉は目を見開いた。「美味しいです……不思議な味ですね?」するとエミは教えてくれた。「フフ……これはね、冷やして食べるとバニラアイスのような味になると言われているフルーツなのよ」「あ……なるほど。確かに言われてみれば、バニラアイスの味がします!」「あら、アカリ。少し元気が出てきたみたいね?」「はい。フルーツを食べたら元気が出てきました」「そう、良かった。まだまだあるから沢山食べてね?」「はい……でもそんなに一度に沢山食べられないので少しずついただきますね」エミはその様子を見て頷いた。「一応、我が家で常備している風邪薬を持ってきたから、後で飲んでね?」「はい。色々とありがとうございました。折角モルディブに来て風邪をひいてしまって不運だなって思っていましたけど、エミさんに出会えて本当に良かったです……。こんなに誰かに親切にしてもらうのは……久

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-08
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-15 琢磨と明日香 1

    モルディブ時間の午後8時—―翔のスマホが鳴っている。部屋にいた明日香が気付き、手に取った。「誰かしら……あら?」着信相手は琢磨からだ。早速明日香は電話に出ることにした。「はい、もしもし」『もしもし…って明日香ちゃんか?!』「ええそうよ、何? 仕事の話かしら?」明日香はベッドの上でワインを手に取ると優雅に飲んだ。『いや……別にそういうわけじゃないが……。翔はどうしたんだ?』「シャワーを浴びに行ってるわ」『そうか。という事は食事は済んだのか?』「ええ、そうよ。今日はモルディブでも有名なレストランに行ってきたのよ。やっぱりこの国の魚料理はおいしいわね」明日香はその時の事を思い出し、笑みを浮かべる。『ああ、そうかい。それは良かったな』電話越しに琢磨のイラつきを感じとる明日香。「あら、何よ。随分イラついているじゃない? さては私達だけモルディブで羽を伸ばして自分だけは日本で仕事をしているから、八つ当たりでもしてるのかしら? なら貴方も来月休暇を取ってここに来ればいいじゃない。海は綺麗だし最高よ?」そしてもう一杯、ワインを飲み干す。『おい……明日香ちゃん。もしかして酒でも飲みながら話してるのか?』「あら、良く分かったわね?」『当り前だろう? さっきから会話の合間合間に何か飲み干す音が聞こえてくるんだから……おい、電話中に酒はやめろよ。気が散る』「ほんとに琢磨って昔から遠慮なしにずけずけと言いたい事言ってくれるわね? この私にそんな口聞くの貴方くらいよ?」『おお、そうかい。それは良かったな? 明日香ちゃんに物申せる人物がいてさ』「……切るわよ? 何よ。文句を言う為にかけて来た訳?」明日香はムッとして通話を切りかけ……。『おい、待てよ! おかしいだろう? そもそも俺は明日香ちゃんの携帯じゃ無くて、翔の携帯に電話してるんだぞ? 勝手に人の電話に出て、挙句に切ろうとするなんて滅茶苦茶な話だろ?』「……それじゃ、何の為に電話してきたのよ」すると、はああ~と電話越しに琢磨の溜息をつく声が聞こえてきた。『ああ……もういいや、電話の相手が明日香ちゃんでも』「何よ? 私でもいいって?」『いいか? 俺は朱莉さんの事で電話をかけてきたんだ』朱莉と聞いて、明日香の眉がピクリと動く。「な、何よ。私はちゃんとやるべきことはやったわよ? 彼女の

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-09
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-16 琢磨と明日香 2

    『何だ……随分悔しそうにしているみたいじゃ無いか? 朱莉さんを困らせる事ができなくてそんなに残念か?』「な、何言ってるの? そんなはず無いでしょう!?」図星を指された明日香は強気な態度で胡麻化す。『おまけに自分達だけはファーストクラスで彼女はエコノミーか。せめてビジネスクラス位は考えてあげなかったのか?』「そ……そんなの、取れなかったからよ!」『嘘つくなよ。知ってるんだぞ? 鳴海グループの御曹司なんだからVIP待遇で飛行機の座席くらい簡単に抑えられるのは。どうせ彼女は庶民なんだから……とでも思ったか? それとも名ばかりとは言え翔の妻だから彼女が気に入らないか? もしかして朱莉さんに嫉妬してるのか? でもそれはおかしな話だよなあ? 彼女の方がずっと弱い立場なのに……』明日香は痛い所を突かれて、言葉を無くしてしまった。嫉妬? まさか……本当に嫉妬してるのだろうか? 明日香は頭を押さえた。『なんだ図星か? まあ、別にいいさ。俺が電話をかけてきたのは、そんな事を言う為にかけたんじゃない。だって今更言っても始まらないことだしなあ? そんなことよりも知ってるか? 朱莉さんがホテルに着いた途端に高熱で倒れたのは?』「え? 何よそれ……?」そんな話は初耳だ。明日香は受話器を耳に押し付けるようにして琢磨に尋ねた。『そうか……やはり知らなかったのか。翔には昨夜電話入れたんだけどなあ。朱莉さんが高熱で倒れたからホテルに様子を見に行ってやれって。明日香ちゃんにはそのこと伝えなかったのかよ?』「何も聞いてないわよ! って言うか……何故日本にいる貴方がそんな事知ってるのよ?」再び興奮し始めた明日香は声を荒げる。『おい、だから耳元で大きな声を出すなって言っただろう? ちゃんと聞こえてるから普通の大きさで話せよ』「わ、分かったから話しなさいよ」『現地ガイドの女性から連絡があったんだよ。朱莉さんの具合が悪そうだから様子を見に行ってあげるように伝えてくれって。だから俺は翔に連絡をいれたんだけどなあ……』「!」その時、明日香が息を飲む気配を琢磨は電話越しに感じた。(おいおい……まじかよ……)琢磨は溜息をつくと言った。『その様子だと何か心当たりありそうだな? さては止めたか? 朱莉さんの所へ行こうとした翔を……』「だ……だってそうでしょう!? この旅行は……

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-09
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-17 明日香の思惑 1

    翌朝――「う~ん……」 朱莉はベッドの中で大きな伸びをした。エミのお陰で朱莉はすっかり熱も下がり、体調は回復していた。ホテルに着いてから1度もシャワーを浴びていなかった朱莉は着替えを用意するとバスルームへと向かう。「ふう~。気持ち良かった……。それにしてもここへ来てから殆ど食事していなかったから体重随分減っちゃったみたい」朱莉は溜息をついた。先ほどバスルームにある鏡を見たとき、あばら骨が浮いているのを見て衝撃を受けてしまった。「今日は何か栄養のある食事をしないとね」――コンコンその時、部屋のドアがノックされた。「え……? 誰だろう?」恐る恐る部屋のドアを開けるとワゴンを押したホテルの女性従業員が立っていた。朱莉を見つめ、片言の日本語で話し始めた。「オハヨウゴザイマス。具合はイカカデスカ?」「あ、もうお陰様ですっかり良くなりました」ペコリと頭を下げる。「コチラ、ルームサービスデス」女性はワゴンを押して部屋の中へと入って来ると、備え付けのテーブルにステンレス製の蓋が付いた大きなトレーを置いた。「食事がオワッタラ、ワゴンの上にトレーヲ乗せてロウカに出して置いて下さい」女性は会釈すると部屋から出て行った。「え……? ルームサービス? 確かこのホテルは自分達で1Fフロアのレストランへ行くんじゃなかったっけ?」朱莉は首を傾げたが、エミの顔がふと頭に浮かんだ。そうだ、きっとエミのお陰かもしれない。彼女がルームサービスを手配してくれたのだ。「後でお礼言わなくちゃ」朱莉はトレーの蓋を開けた。すると、まだ食事は出来立てだったのだろう。熱々のオムレツにボイルしたウィンナー。ベーコンにポテトサラダ、そして数種類のテーブルパンにオニオンスープ。アイスコーヒーまでセットでついている。「うわあああ……美味しそう!」思わず感嘆の声を上げた。「嬉しいな。モルディブに来てフルーツ以外の初めての食事だから。いただきます」朱莉は手を合わせると、まずはオムレツを口に入れる。「おいしい! 流石ホテルの食事!」ほぼ2日ぶりの食事と言う事で、朱莉はあっという間に間食してしまった。食べ終えたトレーをワゴンに乗せて、廊下に出すと早速エミにメッセージを送ることにした。『おはようございます。お陰様ですっかり具合が良くなりました。ルームサービスをわざわざ頼んでいた

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-09
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   2-18 明日香の思惑 2

    丁度、その頃――「そう言えばね……昨夜、琢磨から連絡がきたのよ。朱莉さん、具合が悪かったんですって?」朝食の席で明日香は翔に尋ねた。「え? 琢磨から電話があったのか? いつ?」「貴方がシャワーを浴びていた時よ。琢磨からだったから私が出たの」「あ、ああ……。そうだったのか。それで琢磨は何て言ってた?」「ええ。昨夜の話では、朱莉さんが個人的に頼んだガイド兼通訳の人が朝朱莉さんを見舞ってあげたらしいわ。フルーツを差し入れしてあげたら喜んでいたって。そのガイドの女性が帰る頃には大分具合が良くなっていたそうよ。良かったじゃない。親切なガイド女性に巡り合えてね」ツンとした様子で明日香はそれだけを話すとミネラルウォーターを飲み干した。他にも色々琢磨には朱莉の事で責められたが、思い出したくも無かったので明日香は黙ることに決めたのだ。「……」一方の翔は明日香の話を聞いてから難しそうな顔で黙り込んでいる。その様子を見て明日香は眉を顰める。(まさか、朱莉さんのことを考えているのかしら? だとしたら許せないわ。私が目の前にいるのに他の女のことを考えるなんて)「ねえ、翔。何を考えているの? ひょっとして朱莉さんのことなんじゃないの?」念の為に明日香は尋ねてみたが、翔の答えは明日香の思っていた通りの答えであった。「あ、ああ。朱莉さん、今朝はもう体調良くなったかなと思って。ごめん、明日香の前でこんな話して。忘れてくれ」謝られても明日香は翔が朱莉のことを考えていたと言われるだけで、どうしようもない嫉妬にかられてしまう。そこである考えが浮かんだ。朱莉に嫌がらせをする最高の考えが……。(そうよ、翔がいけないのよ。私はちっとも悪くない……)「ねえ、翔。朱莉さんの具合が気になるなら連絡入れてみなさいよ」明日香の急な提案に翔は目を見開いた。「え……? い、いいのか?」「いいに決まってるじゃない。だって高熱を出したんでしょう? 今の体調が気になるのは私も一緒よ。それで、もし朱莉さんの具合が良いなら3人で一緒に出掛けましょうよ。おじいさまにモルディブに行ってきたことを証明するためにも写真があった方がいいでしょう?」「確かにそうだな。ありがとう、明日香」翔は嬉しそうに笑った。明日香のその裏に隠された本心を知ることもなく――****バルコニーで海を眺めていた朱莉の元

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-09

บทล่าสุด

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-20 翔の隠し事 2

    「翔さん、落ち着いて下さい。医者の話では出産と過呼吸のショックで一時的に記憶が抜け落ちただけかもしれないと言っていたではありませんか。それに対処法としてむやみに記憶を呼び起こそうとする行為もしてはいけないと言われましたよね?」「ああ……だから俺は何も言わず我慢しているんだ……」「翔さん。取りあえず今は待つしかありません。時がやがて解決へ導いてくれる事を信じるしかありません」やがて、2人は一つの部屋の前で足を止めた。この部屋に明日香の目を胡麻化す為に臨時で雇った蓮の母親役の日本人女子大生と、日本人ベビーシッター。そして生れて間もない蓮が宿泊している。 翔は深呼吸すると、部屋のドアをノックした。すると、程なくしてドアが開かれ、ベビーシッターの女性が現れた。「鳴海様、お待ちしておりました」「蓮の様子はどうだい?」「良くお休みになられていますよ。どうぞ中へお入りください」促されて翔と姫宮は部屋の中へ入ると、そこには翔が雇った蓮の母親役の女子大生がいない。「ん? 例の女子大生は何処へ行ったんだ?」するとシッターの女性が説明した。「彼女は買い物へ行きましたよ。アメリカ土産を持って東京へ戻ると言って、買い物に出かけられました。それにしても随分派手な母親役を選びましたね?」「仕方なかったのです。急な話でしたから。それより蓮君はどちらにいるのですか?」姫宮はシッターの女性の言葉を気にもせず、尋ねた。「ええ。こちらで良く眠っておられますよ」案内されたベビーベッドには生後9日目の新生児が眠っている。「まあ……何て可愛いのでしょう」姫宮は頬を染めて蓮を見つめている。「あ、ああ……。確かに可愛いな……」翔は蓮を見ながら思った。(目元と口元は特に明日香に似ているな)「残念だったよ、起きていれば抱き上げることが出来たんだけどな。帰国するともうそれもかなわなくなる」すると姫宮が言った。「いえ、そんなことはありません。帰国した後は朱莉さんの元へ会いに行けばいいのですから」「え? 姫宮さん?」翔が怪訝そうな顔を見せると、姫宮は、一種焦った顔をみせた。「いえ、何でもありません。今の話は忘れてください」「あ、ああ……。それじゃ蓮の事をよろしく頼む」翔がシッターの女性に言うと、彼女は驚いた顔を見せた。「え? もう行かれるのですか?」「ああ。実はこ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-19 翔の隠し事 1

     アメリカ—— 明日いよいよ翔たちは日本へ帰国する。翔は自分が滞在しているホテルに明日香を連れ帰り、荷造りの準備をしていた。その一方、未だに自分が27歳の女性だと言うことを信用しない明日香は鏡の前に座り、イライラしながら自分の顔を眺めている。「全く……どういうことなの? こんなに自分の顔が老けてしまったなんて……」それを聞いた翔は声をかける。「何言ってるんだ、明日香。お前はちっとも老けていないよ。いつもどおりに綺麗な明日香だ」すると……。「ちょっと! 何言ってるのよ、翔! 自分迄老け込んで、とうとう頭もやられてしまったんじゃないの? 今迄そんなこと私に言ったこと無かったじゃない。大体おかしいわよ? 私が病院で目を覚ました時から妙にベタベタしてくるし……気味が悪いわ。もしかして私に気があるの? 言っておくけど仮にも血が繋がらなくたって私と翔は兄と妹って立場なんだから! 私に対して変な気を絶対に起こさないでね!?」明日香は自分の身体を守るように抱きかかえ、翔を睨み付けた。「あ、ああ。勿論だ、明日香。俺とお前は兄と妹なんだから……そんなことあるはず無いだろう?」苦笑する翔。「ふ~ん……翔の言葉、信用してもいいのね?」「ああ、勿論さ」「だったらこの部屋は私1人で借りるからね! 翔は別の部屋を借りてきてちょうだい。 あ、でも姫宮さんは別にいて貰っても構わないけど?」明日香は部屋で書類を眺めていた姫宮に声をかける。「はい、ありがとうございます」姫宮は明日香に丁寧に挨拶をした。「それでは翔さん、別の部屋の宿泊手続きを取りにフロントへ御一緒させていただきます。明日香さん。明日は日本へ帰国されるので今はお身体をお安め下さい」姫宮は一礼すると、翔に声をかけた。「それでは参りましょう。翔さん」「あ、ああ。そうだな。それじゃ明日香、まだ本調子じゃないんだからゆっくり休んでるんだぞ?」部屋を出る際に翔は明日香に声をかけた。「大丈夫、分かってるわよ。自分でも何だかおかしいと思ってるのよ。急に老け込んでしまったし……大体私は何で病院にいたの? 交通事故? それとも大病? そうでなければ身体があんな風になるはず無いもの……」明日香は頭を押さえながらブツブツ呟く「ならベッドで横になっていた方がいいな」「そうね……。そうさせて貰うわ」返事をすると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-18 雨の中の再会 2

     琢磨に礼を言われ、朱莉は恐縮した。「い、いえ。お礼を言われるほどのことはしていませんから」「朱莉さん、そろそろ17時になる。折角だから何処かで食事でもして帰らないかい?」「あ、それならもし九条さんさえよろしければ、うちに来ませんか? あまり大した食事はご用意出来ないかもしれませんが、なにか作りますよ?」朱莉の提案に琢磨は目を輝かせた。「え?いいのかい?」「はい、勿論です。あ……でもそれだと九条さんの相手の女性の方に悪いかもしれませんね……」「え?」その言葉に、一瞬琢磨は固まる。(い、今……朱莉さん何て言ったんだ……?)「朱莉さん……ひょっとして俺に彼女でもいると思ってるのかい?」琢磨はコーヒーカップを置いた。「え? いらっしゃらないんですか?」朱莉は不思議そうに首を傾げた。「い、いや。普通に考えてみれば彼女がいる男が別の女性を食事に誘ったり、こうして買い物について来るような真似はしないと思わないかい?」「言われてみれば確かにそうですね。変なことを言ってすみませんでした」朱莉が照れたように謝るので琢磨は真剣な顔で尋ねた。「朱莉さん、何故俺に彼女がいると思ったの?」「え? それは九条さんが素敵な男性だからです。普通誰でも恋人がいると思うのでは無いですか?」「あ、朱莉さん……」(そんな風に言ってくれるってことは……朱莉さんも俺のことをそう言う目で見てくれているってことなんだよな? だが……これは喜ぶべきことなのだろうか……?)琢磨は複雑な心境でカフェ・ラテを飲む朱莉を見つめた。すると琢磨の視線に気づく朱莉。「九条さんは何か好き嫌いとかはありますか?」「いや、俺は好き嫌いは無いよ。何でも食べるから大丈夫だよ」それを聞いた朱莉は嬉しそうに笑った。「九条さんも好き嫌い無いんですね。航君みたい……」その名前を琢磨は聞き逃さなかった。「航君?」「あ、いけない! すみません、九条さん、変なことを言ってしまいました。そ、それじゃもう行きませんか?」朱莉は慌てて、まるで胡麻化すように席を立ちあがった。「あ、ああ。そうだね。行こうか?」琢磨も何事も無かったかの様に立ち上がったが、心は穏やかでは無かった。(航君……? 一体誰のことなんだろう? まさかその人物が朱莉さんと沖縄で同居していた男なのか?それにしても君付けで呼ぶなん

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-17 雨の中の再会 1

     14時―― 朱莉がエントランス前に行くと、すでに琢磨が億ションの前に車を停めて待っていた。「お待たせしてすみません。九条さん、もういらしてたんですね」朱莉は慌てて頭を下げた。「いや、そんなことはないよ。だってまだ約束時間の5分以上前だからね」琢磨は笑顔で答えた。本当はまた今日も朱莉に会えるのが嬉しくて、今から15分以上も前にここに到着していたことは朱莉には内緒である。「それじゃ、乗って。朱莉さん」琢磨は助手席のドアを開けた。「はい、ありがとうございます」朱莉が助手席に座ると、琢磨も乗り込んだ。シートベルトを締めてハンドルを握ると早速朱莉に尋ねた。「朱莉さんは何処へ行こうとしていたんだっけ?」「はい。赤ちゃんの為に何か素敵なCDでも買いに行こうと思っていたんです。それとまだ買い足したいベビー用品もあるんです」「よし、それじゃ大型店舗のある店へ行ってみよう」「はい、お願いします」琢磨はアクセルを踏んだ――**** それから約3時間後――朱莉の買い物全てが終了し、車に荷物を積み込んだ2人はカフェでコーヒーを飲みに来ていた。「思った以上に買い物に時間がかかってしまったね」「すみません。九条さん……私のせいで」朱莉が申し訳なさそうに頭を下げた。「い、いや。そう意味で言ったんじゃないんだ。まさか粉ミルクだけでもあんなに色々な種類があるとは思わなかったんだよ」「本当ですね。取りあえず、どんなのが良いか分からなくて何種類も買ってしまいましたけど口に合う、合わないってあるんでしょうかね?」「う~ん……どうなんだろう。俺にはさっぱり分からないなあ……」琢磨は珈琲を口にした。「そう言えば、すっかり忘れていましたけど、九条さんの会社はインターネット通販会社でしたね?」「い、いや。俺の会社と言われると少し御幣を感じるけど……まあそうだね」「当然ベビー用品も扱っていますよね?」「うん、そうだね」「それでは今度からはベビー用品は九条さんの会社で利用させていただきます」「ありがとう。確かに新生児がいると母親は買い物も中々自由に行く事が難しいかもね。……よし、今度の企画会議でベビー用品のコンテンツをもっと広げるように提案してみるか……」琢磨は仕事モードの顔に変わる。「ついでに赤ちゃん用の音楽CDもあるといいですね。出来れば視聴も試せ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-16 帰国の知らせ 2

     朝食を食べ終わり、片付けをしていると今度は朱莉の個人用スマホに電話がかかってきた。それは琢磨からであった。昨夜琢磨と互いのプライベートな電話番号とメールアドレスを交換したのである。「はい、もしもし」『おはよう、朱莉さん。翔から何か連絡はあったかい?』「はい、ありました。突然ですけど明日帰国してくるそうですね」『ああ、そうなんだ。俺の所にもそう言って来たよ。それで明日香ちゃんの為に俺にも空港に来てくれと言ってきたんだ。……当然朱莉さんは行くんだろう?』「はい、勿論行きます」『車で行くんだよね?』「はい、九条さんも車で行くのですね」『それが聞いてくれよ。翔から言われたんだ。車で来て欲しいけど、俺に運転しないでくれと言ってるんだ。仕方ないから帰りだけ代行運転手を頼んだんだよ。全く……いつまでも俺のことを自分の秘書扱いして……!』苦々し気に言う琢磨。それを聞いて朱莉は思った。(だけど九条さんも人がいいのよね。何だかんだ言っても、いつも翔先輩の言うことを聞いてあげているんだから)朱莉の思う通り、琢磨自身が未だに自分が翔の秘書の様な感覚が抜けきっていないのも事実である。それ故、多少無理難題を押し付けられても、つい言いなりになってしまうことに琢磨自身は気が付いていなかった。「でも、どうしてなんでしょうね? 九条さんに運転をさせないなんて」朱莉は不思議に思って尋ねた。『それはね、全て明日香ちゃんの為さ。明日香ちゃんは自分がまだ高校2年生だと思っているんだ。その状態で俺が車を運転する訳にはいかないんだろう。全く……せめて明日香ちゃんが自分のことを高3だと思ってくれていれば、在学中に免許を取ったと説明して運転出来たのに……』琢磨のその話がおかしくて、朱莉はクスリと笑ってしまった。「でもその場に私が現れたら、きっと変に思われますよね? 明日香さんには私のこと何て説明しているのでしょう?」『……』何故かそこで一度琢磨の声が途切れた。「どうしたのですか? 九条さん」『朱莉さん……君は何も聞かされていないのかい?』「え……?」『くそ! 翔の奴め……いつもいつも肝心なことを朱莉さんに説明しないで……!』「え? どういうことですか?」(何だろう……何か嫌な胸騒ぎがする)『俺も今朝聞いたばかりなんだよ。翔は現地で臨時にアルバイトとして女子大生と

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-15 帰国の知らせ 1

    「それじゃ、朱莉さん。次は翔から何か言ってくるかもしれないけど、くれぐれもアイツの滅茶苦茶な要求には答えたら駄目だからな?」タクシーに乗り込む直前の朱莉に琢磨は念を押した。「九条さんは随分心配性なんですね。私なら大丈夫ですから」朱莉は笑みを浮かべた。「もし翔から契約内容を変更したいと言ってきたら……そうだな。まずは俺に相談してから決めると返事をすればいい」するとタクシー運転手が話しかけてきた。「すみません。後が詰まってるので……出発させて貰いたいのですが……」「あ! すみません!」琢磨は慌ててタクシーから離れると、朱莉が乗り込んだ。車内で朱莉が琢磨に頭を下げる姿が見えたので、琢磨は手を振るとタクシーは走り去って行った。「ふう……」タクシーの後姿を見届けると、琢磨はスマホを取り出して、電話をかけた。「もしもし……はい。そうです。今別れた所です。……ええ。きちんと伝えましたよ。……後はお任せします。え? ……いいのかって? ……あなたなら何とかしてくれるでしょう? それだけの力があるのですから。……失礼します」そして電話を切ると、夜空を見上げた。「雨になりそうだな……」**** 翌朝――6時朱莉はベッドの中で目を覚ました。昨夜は琢磨から聞いた翔の伝言で頭がいっぱいで、まともに眠ることが出来なかった。寝不足でぼんやりする頭で起きて、着替えをするとカーテンを開けた。「あ……雨……。どうりで薄暗いと思った……」今日は朱莉の車が沖縄から届く日になっている。車が届いたら朱莉は新生児に効かせる為のCDを買いに行こうと思っていた。これから複雑な環境の中で育っていく子供だ。せめて綺麗な音楽に触れて、情操教育を養ってあげたいと朱莉は考えていた。洗濯物を回しながら朝食の準備をしていると、翔との連絡用のスマホに着信を知らせる音楽が鳴った。(まさか、翔先輩!?)朱莉はすぐに料理の手を止め、スマホを見るとやはり翔からのメッセージだった。今朝は一体どんな内容が書かれているのだろう? 翔からの連絡は嬉しさの反面、怖さも感じる。好きな人からの連絡なのだから嬉しい気持ちは確かにあるのだが問題はその中身である。大抵翔からのメールは朱莉の心を深く傷つける内容が殆どを占めている。(やっぱり契約内容の変更についてなのかなあ……)朱莉はスマホをタップした。『おは

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-14 翔の新たな要求 2

    「本当はこんなこと、朱莉さんに言いたくは無かった。だが翔が仮に今の話を直接朱莉さんに話したとしたら? 恐らく翔のことだ。きっと再び朱莉さんを傷付けるような言い方をして、挙句の果てに、これは命令だとか、ビジネスだ等と言って強引に再契約を結ばせるつもりに違いない。だがそんなこと、絶対に俺はさせない。無期限に朱莉さんを縛り付けるなんて絶対にあってはいけないんだ」琢磨は顔を歪めた。(え……無期限に明日香さんの子供の面倒を? それってつまり偽装婚も無期限ってこと……?)なので朱莉は琢磨に尋ねた。「あの……それってつまり翔さんは私との偽装結婚を無期限にする……ということでもあるのですよね?」(そうしたら、私……もう少しだけ翔先輩と関わっていけるってことなのかな?)しかし、次の瞬間朱莉の淡い期待は打ち砕かれることになる。「いや、翔の言いたいことはそうじゃないんだ。当初の予定通り偽装婚は残り3年半だけども子育てに関しては明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで続けて貰いたいってことなんだよ」「え……?」「つまり、翔は3年半後には契約通りに朱莉さんと離婚して、子供だけは朱莉さんに引き続き面倒を見させる。しかも明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで、無期限にだ。こんな虫のいい話あり得ると思うかい?」「……」朱莉はすっかり気落ちしてしまった。(やっぱり……ほんの少しでも翔先輩から愛情を分けて貰うのは所詮叶わないことなの? でも……)「九条さん」朱莉は顔を上げた。「何だい」「私、明日香さんと翔さんの赤ちゃんを今からお迎えするの、本当に楽しみにしてるんです。例え自分が産んだ子供で無くても、可愛い赤ちゃんとあの部屋で一緒に暮らすことが待ちきれなくて……」「朱莉さん……」「九条さん。もし、子供が3歳になっても明日香さんが記憶を取り戻せなかった場合は、翔さんは私に引き続き子供を育てて欲しいって言ってるわけですよね? それって……翔さんは記憶の戻っていない明日香さんにお子さんを会わせてしまった場合、お互いにとって精神面に悪影響が出るのではと苦慮して私に預かって貰いたいと思っているのではないでしょうか? だって、考えても見てください。ただでさえ10年分の記憶が抜けて自分は高校生だと信じて疑わない明日香さんに貴女の産んだ子供ですと言って対面させた場合、明日香さんが正常でいられると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-13 翔の新たな要求 1

     明日香が10年分の記憶を失い、高校生だと思い込んでいる話は朱莉にとってあまりにもショッキングな話であった。「朱莉さん、大丈夫かい? 顔色が真っ青だ」「は、はい。大丈夫です。でもそうなると今一番大変なのは翔先輩ではありませんか?」朱莉は翔のことが心配でならなかった。あれ程明日香を溺愛しているのだ。17歳の時、翔と明日香は交際していたのだろうか? ただ、少なくとも朱莉が入学した当時の2人は交際しているように見えた。「朱莉さん、翔が心配かい?」琢磨が少し悲し気な表情で尋ねてきた。「はい、とても心配です。勿論一番心配なのは明日香さんですけど」「やっぱり朱莉さんは優しい人なんだね」(あの2人に今迄散々蔑ろにされてきたのに……それらを全て許して今は2人をこんなに気に掛けて……)「何故翔さんは九条さんに連絡を入れてきたのですか? それに、どうして九条さんから私に説明することになったのでしょう?」朱莉は琢磨の瞳をじっと見つめた。「俺も、2日前に翔から突然メッセージが届いたんだよ。あの時は驚いた。翔と決別した時に、アイツはこう言ったんだよ。互いに二度と連絡を取り合うのをやめにしようと。こちらとしてはそんなつもりは最初から無かったけど、翔がそこまで言うのならと思って自分から二度と連絡するつもりは無かったんだ。それなのに突然……」そして、琢磨は近くを通りかかった店員に追加でマティーニを注文すると朱莉に尋ねた。「朱莉さんはどうする?」「それでは私はアルコール度数が低めのお酒で」「それなら、『ミモザ』なんてどうかな? シャンパンをオレンジジュースで割った飲み物だよ。アルコール度数も8度前後で、他のカクテルに比べると度数が低い」琢磨はメニュー表を見ながら朱莉に言った。「はい、ではそちらを頂きます」「かしこまりました」店員は頭を下げると、その場を立ち去っていく。すると琢磨が再び口を開いた。「明日香ちゃんは自分を高校生だと思い込んでいるから、当然翔の隣にはいつも俺がいるものだと思い込んでいるらしいんだ。考えてみればあの頃の俺達はずっと3人で一緒に高校生活を過ごしてきたようなものだからね。それで明日香ちゃんが目を覚ました時、翔に俺のことを聞いてきたらしい。『琢磨は何処にいるの?』って。それで一計を案じた翔が明日香ちゃんを安心させる為に、もう一度3人で会いた

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-12 重大な話 2

    「九条さんが【ラージウェアハウス】の新社長に就任した話はニュースで知ったんです。あの時九条さん言ってましたよね? 鳴海グループにも負けない程のブランド企業にするって」「ああ、あの話か……。あれは……まあもう1人の社長にああいうふうに言えって半ば命令されたからさ。自分の意思で言った訳じゃ無いが正直、気分は良かったな」琢磨は笑みを浮かべる。「あの翔に一泡吹かせることが出来たみたいだし。初めはテレビインタビューなんて御免だと思ったけどね。大分、翔の奴は慌てたらしい」朱莉もカクテルを飲むと琢磨を見た。「え? その話は誰から聞いたんですか?」「会長だよ」琢磨の意外な答えに朱莉は驚いた。「九条さんは会長と個人的に連絡を取り合っていたのですか?」「ああ、そうだよ。実は以前から会長に秘書にならないかと誘われていたんだ。でも俺は翔の秘書だったから断っていたんだけどね」「そうだったんですか」あまりにも驚く話ばかりで朱莉の頭はついていくのがやっとだった。「それにしても朱莉さんも随分雰囲気が変わったよね? 前よりは積極的になったようだし、お酒も飲めるようになってきた。……ひょっとして沖縄で何かあったのかい?」琢磨の質問に朱莉は一瞬迷ったが、決めた。(九条さんだって話をしてくれたのだから、私も航君のこと、話さなくちゃ)「実は……」朱莉は沖縄での航との出会い、そして別れまでを話した。もっとも名前を明かす事はしなかったが。一方の琢磨は朱莉の話を呆然と聞いていた。(まさか朱莉さんが男と同居していたなんて。しかもあんなに頬を染めて嬉しそうに話してくるってことは……その男、朱莉さんに取って特別な存在だったのか?)朱莉が沖縄で男性と同居をしていた……その事実はあまりに衝撃的で、琢磨の心を大きく揺さぶった。「それでその彼とは東京へ戻ってからは音信不通……ってことなのかい?」内心の動揺を隠しながら琢磨は尋ねた。「はい。そうです。だから条さんとは連絡が取れて嬉しかったです。ありがとうございました」お酒でうっすら赤く染まった頬ではにかみながら琢磨にお礼を言う朱莉の姿は琢磨の心を大きく揺さぶった。「そ、そんな笑顔で喜んでくれるなんて思いもしなかったよ。でも……そうか。朱莉さんが以前よりお酒を飲めるようになったのはその彼のお陰なんだね?」「そうですね……。きっとそう

สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status